仮想通貨取引所選びで最も重要なのは保証

近年、ユーザー数が爆発的に増えている仮想通貨市場。その将来性や投機性の高さから業界は活気に溢れていますが、同時に多くの資産が集まる仮想通貨取引所はサイバー犯罪のリスクに常に晒されています。

例えば、ある日自分が利用している仮想通貨取引所がハッキングされ、口座にあった通貨がすべて盗まれるという最悪のケースが起こり得るのが仮想通貨の世界です。そうした時、取引所や国はどの程度まで保証に応じてくれるのでしょうか? ユーザーを守るための法律やサポート体制はどこまで整えられているのでしょうか?

実際のところ、仮想通貨は市場の急成長に反して、法律やセキュリティの整備が追いついていない危うい側面があります。何らかのトラブルによって自分の資産が流出してしまっても、ユーザーを確実に守ってくれる法律はありません。きちんと保証が受けられかどうかもケースバイケースです。場合によっては泣き寝入りをしなくてはいけないかもしれません。

そんなことにならないためにも、仮想通貨を始める際には、仮想通貨取引所の保証制度についてきちんと知っておきましょう。ここでは、信託保全やサイバー保険などの話題を交え、仮想通貨取引所の保証やサポートについて解説していきます。自衛のためにぜひご一読ください。

預けた資産がなくなる!?仮想通貨が抱えるリスク

現在、世界中の仮想通貨取引所でハッキングの被害が多発しています。アジアだけで見ても2016年のビットフィネックス社(香港:被害額約65億円)や、2017年のヤピゾン社(韓国:被害額約6億円)、2018年のコインチェック(日本:被害額約580億円)など、毎年のように巨額の不正アクセス被害が起こっています。

また、仮想通貨取引所はハッキング以外にも、技術的な問題や詐欺の横行、急激な市場の変化による経営破綻といった様々なリスクを抱えています。投資家にとってこうしたリスクは頭の痛い問題です。


もし、ハッキングや取引所の経営破綻などによって自分の資産が失われてしまったら、保証はどうなるのでしょうか。
仮想通貨はいまだ発展途上の市場で、法律の整備が追いついていない面があります。例えば一般の銀行なら、もし破綻しても普通預金を1000万円までなら補償してくれる預金保険制度(ペイオフ)がありますが、仮想通貨にはこうした保険制度はなく、国の保証の対象外になっています。そのため万が一トラブルにあって資産が流出してしまった場合、それを確実に取り戻せるかどうかは法的に保証されていません。

もちろん仮想通貨取引所がユーザーに対して資産の返還に応じることはありますが、対応が遅かったり、補償額が十分でなかったりと、ケースによって保証の質はばらばらです。また、海外では巨額の被害を出してしまった取引所がそのまま倒産した事例もあります。「何かあっても取引所がお金を返してくれるから大丈夫だろう」という考えは危険だと言えます。

今後、仮想通貨取引所を利用して自分の資産を運用していくなら、取引所が抱えるリスクと向き合い、安全性をしっかり確認していくことが求められます。

次章では、頻発する流出トラブルに対して有効な「信託保全」という保証サービスについて解説します。

取引所の保証は最重要ポイント!

仮想通貨取引所は常に資産流出のリスクを抱えています。そのため、取引所を選ぶ際は不正アクセスに対するセキュリティや、ユーザー保護のしくみがどの程度しっかりしているかをきちんと確かめる必要があります。

ちなみに、現在日本で施行されている仮想通貨関連の法律「改正資金決済法」では、仮想通貨取引所に対して資産の「分割管理」を義務づけています。これは自社と顧客の資産を完全に分離して管理することで、ハッキングなどからユーザーを守るための施策です。しかし、例えば取引所が経営破綻したり、マウントゴックス事件のように社内の人間が顧客資産を不正に流用したりした場合など、分割管理では十分に対応しきれないケースもあります。

一方、FXなどを扱う従来の証券会社では「信託保全」という制度をとることが義務づけられています。信託保全とは、証券会社が銀行と提携し、ユーザーの資産を分離独立して守ってもらう制度のことです。信託保全が実施されていれば、もし証券会社が破綻したとしても、ユーザーの資産は確実に全額返還されることが保証されています。

この信託保全は、現在、仮想通貨取引所に対しては法的に義務づけられていません。しかし自主的に信託保全を行っている仮想通貨取引所も少ないながら存在しています。

安全性を重視して取引所を選ぶなら、セキュリティやユーザーサポートのレベルはもちろん、信託保全をしているかどうかまでチェックすることをおすすめします。


次章では、国内の主要な仮想通貨取引所を取り上げ、どのような保証を行っているのかを具体的に解説していきます。

国内の仮想通貨取引所はどんな保証をしている?

ここでは、国内の主要な仮想通貨取引所3社を例に、具体的な保証の内容について見ていきます。

信託保全あり!安心の国内最大手:bitflyer(ビットフライヤー)

国内最大の規模を誇るビットフライヤーは、三井住友海上火災保険株式会社と提携して信託保全を結んでいます。

不正アクセスによって資産が失われた場合、仮想通貨と円を合計した預かり資産が100万円以上の場合は最大500万円まで、それ以下の場合は最大10万円までを保証してくれます。ただし対象は日本円での不正出金に限られる点と、あらかじめ二段階認証を設定している必要がある点に注意が必要です。

いくつか条件があるものの、ビットフライヤーの保証は現在のところ国内の仮想通貨取引所では最も手厚いと言えます。

経営再編!新保証サービスに注目:coincheck(コインチェック)

多額の資産流出事件を起こしたコインチェックですが、経営再編後はハッキング被害を未然に防ぎ、顧客の資産を守るためのしくみ作りに力を入れています。

その一つが東京海上日動火災保険株式会社と提携した盗難保証で、2018年6月内にスタートが予定されています。
この盗難保証はユーザーの資産が日本円で不正に換金された場合や、ビットコインで不正送金された場合を対象に、1回の請求につき100万円を上限に返還を保証するものです。なお、こちらもあらかじめ二段階認証を設定していることが条件になっています。

人気の取引所だが保証は手薄:Zaif(ザイフ)

ビットコインの取引手数料マイナスキャンペーンで人気のザイフですが、今のところ盗難保証や信託保全といった対策は行われていません。そのため何らかのトラブルで資産が失われても、どの程度まで保証されるかについては不透明です。

ただし、ザイフはセキュリティを強化する方針を打ち出していて、資産の分別管理を徹底し、ユーザー情報やバックアップデータの管理を強化するなどの対応をとっています。

3社の中では、三井住友海上火災保険株式会社と提携して信託保全を結んでいるビットフライヤーが最も保証が手厚いと言えます。
ただし、先述のように現在の法律では仮想通貨取引所に対して信託保全は義務づけられていません。次章では、その理由とリスクについて解説していきます。

仮想通貨取引所には信託保全の義務がない!

2009年ごろ、当時ブームだったFX業界ではシステムトラブルや運営側の不正流用、詐欺といったトラブルによって顧客の資産が失われるケースが頻発していました。これを受け当時の金融庁が規制に乗りだし、その結果FXを扱うすべての企業に対して信託保全の導入を義務化しました。これにより投資家が安心して資産を預けられる体制が整い、FXのよりいっそうの普及に繋がりました。

一方、仮想通貨取引所に対してはまだこうした法的な義務がなく、信託保全を行うかどうかは完全に取引所の判断に委ねられているのが現状です。これは2017年4月に施行された改正資金決済法によって、仮想通貨が法定通貨として認められていないためです。

仮想通貨取引所は金融庁の厳しい審査を通過し、一定水準のセキュリティや顧客管理体制を構築していると認められて営業をしています。しかし、歴史が浅く、価格の乱高下が激しい仮想通貨業界では思わぬトラブルから一気に取引所の経営が破綻することもあり得ます。こうしたリスクに対しては、分割管理だけでは対応が不十分です。そのため、今後は仮想通貨取引所に対する信託保全の義務化が求められています。

このところ、金融庁は国内の取引所に対して規制を強める動きを見せているため、今後、信託保全に関しても新たな動きがあるのではないかと見られています。

次章では、仮想通貨取引所が万一のトラブルに見舞われた場合に有効なサイバー保険について解説していきます。

仮想通貨を守る!万一のためのサイバー保険

ハッキングなどのトラブルが頻発する一方で、十分な法整備が追いついていない仮想通貨業界。こうした状況に対応するため、海外ではユーザーを守るための「サイバー保険」が次々に開発されています。

日本国内でも、ビットフライヤーと三井住友海上火災保険株式会社が提携し、ビットコインサイバー保険の提供を開始しました。これは仮想通貨事業者向けに、サイバー攻撃を受けた際の損失を保証するためのもので、仮想通貨を対象とした保険としては国内初となります。

この保険は、ハッキングなどによって発生したビットコインの損失を保証するだけでなく、見舞金や原因調査、被害拡大防止にかかる費用まで手広くカバーしています。また、損失補填だけでなくサイバーリスクに対応するためのコンサルティングサポートを提供している点が特徴です。仮想通貨ユーザーの保護が緊急の課題となっている今、こうした保険の提供は次第に増えていくと考えられています。

ただし、上記の保険はあくまで事業者向けのものです。保険料も高額で、個人が気軽に利用できるものでありません。
今のところ、個人ユーザー向けの仮想通貨保険は発売されていません。一般的に、保険商品を開発するためには過去の事例を膨大に収集し、そのデータを分析して価格などを設定する必要があります。仮想通貨はまだ歴史が浅く、普及率も低いためデータが採りづらく、そのためどの保険会社も仮想通貨の個人向け保険に対する参入には慎重になっています。

現状では、個人ユーザーは保険に頼ることはできません。自分の資産は自分で守るという心構えを持つことが重要です。次章では、資産を守るためにできる自衛策について解説していきます。

市場が未熟だからこそ自分の資産は自分で守る!

仮想通貨業界は法整備が不十分で、個人向け保険もまだ登場していない、発展途上の市場です。現状、個人ユーザーは国や企業に頼るのではなく、自分自身で資産を守る必要があります。ここでは、そのための基本的な対応策を紹介していきます。

資産はハードウェアウォレットで管理する

ハードウェア式の仮想通貨ウォレットは、今のところ最も安全性の高い仮想通貨の保管方法と言われています。ネットから切り離した状態で通貨を保管するため、不正アクセスの被害に遭う心配はありません。仮想通貨を購入した際は、取引所の口座に入れっぱなしにせず、こまめに自分のハードウォレットに移すことをお勧めします。

メールアドレスやパスワードの使い回しをしない

賢く投資をするためには、複数の仮想通貨取引所を使い分けるのが基本の戦略です。その際、設定に使うメールアドレスやパスワードも取引所ごとに違ったものを使い分けるようにしましょう。万一どこかの仮想通貨取引所から個人情報が漏れた場合、使い回しをしていると他の取引所の口座も不正アクセスを受ける可能性があるためです。
また基本的な対策ですが、ログインに使うパスワードは最低でも20文字以上にし、ランダムな英数字や記号を混ぜるなどして強度を高めましょう。誕生日や住所など個人情報に関する文字列を含むものは厳禁です。

二段階認証は必ず設定する

現在、ほどんどの仮想通貨取引所では、セキュリティ対策の一環として二段階認証を採用しています。
二段階認証とは、ユーザーが設定したログインIDやパスワードに加え、もう一段階多くセキュリティコードを入力することでより安全性を高めるためのしくみです。Googleが開発した認証アプリなどを使うことでセキュリティコードを発行することができます。

この二段階認証は設定しなくても取引をスタートすることができますが、取引所によっては二段階認証を行っていないユーザーは保証の対象外になることもあります。取引前に必ず設定しておきましょう。

以上のような自衛手段をとっておけば、トラブルに対するリスクを最小限に抑え、より安全に仮想通貨取引所を利用することができます。
次章では、仮想通貨取引所の安全性や保証について、重要なポイントをまとめておさらいしていきます。

まとめ

仮想通貨取引所の保証について、押さえておきたいポイントを整理してまとめました。

  • 仮想通貨取引所はハッキングや経営破綻など様々なリスクにさらされています
  • FXでは常識の信託保全も、仮想通貨取引所にはまだ法的な義務づけはありません
  • 仮想通貨事業者向けのサイバー保険が登場したが、個人向け保険はまだありません
  • 仮想通貨取引所を選ぶ際はセキュリティだけでなく信託保全の有無も確認を
  • コールドウォレット、強力なパスワード、二段階認証などで自衛しましょう!

仮想通貨は将来性が期待される一方、現状では法律や保証に関して発展途上な面もあり、ユーザーは様々なリスクにさらされています。自分の資産を守り、安全で確実な投資をするためにも、仮想通貨取引所の保証について事前にしっかり確認し、できるだけ多くの対策をとっておきましょう。