仮想通貨取引所が倒産したらどうなるの?
このところ、世界中の仮想通貨取引所でハッキングによる盗難被害が相次いでいます。
日本でも今年1月に、大手取引所のコインチェックが巨額の仮想通貨ネムを流出させる事件が起こりました。一時はあわや倒産か?とまで囁かれ、この事件は仮想通貨の相場にも大きな悪影響を及ぼしました。
幸い、コインチェックは倒産することなく経営を再編し、ユーザーへの返金補償も行っています。しかし、昨今の仮想通貨情勢を考えると、第二第三のコインチェック事件が起こり、廃業に追い込まれる取引所が出てきてもおかしくはありません。
もし仮想通貨取引所が倒産してしまうと、どんなことが起こるのでしょうか。
取引所が破綻して閉鎖されれば、すべての取引は即時停止され、個人の口座に預けていた仮想通貨はすべて失われてしまいます。そして、無くなった個人資産を補償する法的な制度は今のところいっさいありません。
仮想通貨取引所は、ここ数年で急速に普及した新しい金融サービスです。運営する企業側にも顧客管理やセキュリティに関するノウハウが蓄積されていません。そのため、倒産や廃業のリスクは常につきまとっていると言えます。
仮想通貨の取引は基本的にすべて自己責任です。ここでは、自衛のために知っておきたい仮想通貨取引所の倒産リスクについて詳しく解説していきます。
仮想通貨取引所が倒産したら預けたお金はどうなるの?
もしも自分が利用していた取引所が倒産したら、口座に預けていた仮想通貨はどうなってしまうのでしょうか?
結論から言えば、預けていた仮想通貨は基本的にはすべて失われることになります。
取引所が破産や廃業に追い込まれて閉鎖されてしまえば、すべての取引は停止され、自分の口座にアクセスすることもできなくなります。当然、預けていた各種の仮想通貨を引き出して別の場所に送ることもできません。
では、なぜ仮想通貨取引所が倒産すると、ユーザーの資産まで失われてしまうのでしょうか。
例えば銀行の場合、もし経営が破綻しても1000万円までの預貯金が補償される「ペイオフ制度」という法律があります。また、FXや有価証券といった金融商品を扱う証券会社には、顧客の資産を提携銀行に預け入れ、完全に独立した形で保護する信託保全という制度があります。
しかし、現在の仮想通貨にはこのような法的な取り決めがありません。仮想通貨取引所が破産申請をしてしまえば、顧客に対し預かり資産を返還する法的な義務もなくなります。
これは現状、仮想通貨取引所が、銀行や証券会社とは法的に異なる扱いになっているためです。仮想通貨が金融商品とは認められていないため、取引所もまた一般企業と同様の枠組みで扱われているのです。
そのため、破産した場合は一般の企業と同じように、まず従業員の賃金や税金、取引先への支払いなどに優先して社内の資産を使うことになります。その後で顧客への補償を行うため、全てのユーザーに対し満額を返せるほど十分な金額が残るかどうかはその時になってみなければ分かりません。
もちろん、詐欺まがいの悪質企業でないかぎり、倒産した仮想通貨取引所もできる範囲でユーザーに返金しようと努力はするはずです。また、仮想通貨業界全体に悪影響が出ないよう、他の取引所や提携している銀行が何らかの支援をする可能性もあります。
しかし、それでも満額が補償されるかどうかは不透明です。返金されるまでに数年もかかった事例もあります。仮に何らかの返金保障が受けられたら、それだけでラッキーだと言えるでしょう。
次章では、過去に実際起こった仮想通貨取引所の廃業事例から、実際にユーザーにはどのような被害が出たのかを見ていきます。
仮想通貨取引所が倒産した過去の事例
ここでは、過去に破産や廃業に追い込まれた仮想通貨取引所の事例をもとに、ユーザーがどのような被害を受けたのか具体的に見ていきます。
マウントゴックス事件
2014年、当時世界最大の規模を持つ仮想通貨取引所、マウントゴックス(Mt.Gox)が115億円相当のビットコインを流出させ、その結果破産するという事件が起こりました。
当時、世界のビットコインの約7割がマウントゴックスを通して取引されていたため、この事件の影響は非常に大きく、仮想通貨史上に残る大事件になりました。当時、マウントゴックスの廃業によって預けていた仮想通貨を引き出せなくなったユーザーの数は13万人にも上るとされています。
事件当初、ビットコインが流出した原因はハッキングによるものだとされていましたが、その後の調査によってマウントゴックスのCEOが顧客資産を不正に流用した疑いで逮捕され、現在も裁判が続いています。
マウントゴックスが倒産した当時、社内には現金10億円と20万枚のビットコインしか資産が残されていなかったため、ユーザーへの返金補償は不可能と見られていました。
しかしその後ビットコインの価値が急騰したため、マウントゴックス社の資産価値は600億円に跳ね上がりました。これにより、同社は事件から3年経った2017年、全てのユーザーに対し当時の預け入れ資産の全額を返金しました。これは運良くビットコインの価値が急騰したからこそできた異例の対応と言われています。
ユービット事件
2017年12月には、韓国の仮想通貨取引所ユービット(youbit)がハッキングの被害を受け、多額の顧客資産を盗まれたことから破産に追い込まれています。
12月19日、ユービットは北朝鮮からと見られるハッキング攻撃によって総資産の17%相当を盗まれたと発表し、その日のうちに破産申請を行っています。そのため、すべての取引が即日停止し、顧客の口座も凍結されてしまいました。ユーザーにとってはまさに寝耳に水の事態だったと言えるでしょう。
廃業後の補償について、ユービット側は顧客資産の評価額を一律25%減額して返金すると発表しています。つまり、預けていたお金の75%しか返してもらえず、残りの仮想通貨は取り戻せないということになります。韓国内では、この措置に対して異議を唱えるユーザーが訴訟を起こす動きもあり、事態の解決にはまだ時間がかかると見られています。
2つの事例からも分かる通り、仮想通貨取引所が倒産すると自分の口座にアクセスすることができなくなります。そして預けた仮想通貨がいつ、どれだけの割合で返ってくるのか分からないまま、取引所の対応を待つしかなくなるという状況に追い込まれてしまうのです。
次章では、なぜ仮想通貨取引所が上記のように十分な補償を行えないのか、FXなど従来の金融商品と比較しながら解説していきます。
仮想通貨取引所の法規制には穴がある!?
ここでは、なぜ仮想通貨取引所が倒産すると顧客資産が守られないのか、FXを扱う従来の証券会社と比較して解説します。
現在、仮想通貨取引所は「改正資金決済法」という法律によって様々な規制を受けています。
その中の一つとして、取引所を運営する企業は、顧客の資産を自社の資金と完全に分けて管理することが義務づけられています。これは取引所側の人間がユーザーの資産を不正に流用しないようにするための措置で、違反した業者には罰則も設けられています。
しかし、分割管理は取引所内での不正流用に対しては有効ですが、取引所そのものが倒産してしまった場合は十分にユーザーを守ることができません。
一方、FXや有価証券といった従来の金融商品を扱う証券会社では、信託保全という対策をとることが法律で義務づけられています。
信託保全は、証券会社が顧客の資産を提携銀行に預け、社内資産とは完全に切り離した状態で保護する制度です。これにより、もし証券会社が破産したとしても、信託保全によって守られた顧客資産は他の弁済に使われることなく、全額がそのままユーザーの元に戻るしくみになっています。
現在、仮想通貨取引所にはこの信託保全が義務づけられていないため、顧客の資産を完全に守る措置がありません(ただし自主的に信託保全を採用している取引所も少数ですがあります)。
そのため、仮想通貨取引所を銀行や証券会社といった金融機関と同じように考えるのはリスクが高いと言えます。
次章では、仮想通貨取引所が破産や廃業した際に、預けたお金が一切返ってこないケースについて解説します。
預けたお金が返ってこないケース
仮想通貨取引所が倒産してしまった場合、破産申請が行われればユーザーに対する法的な返済義務はなくなってしまいます。そうなると預けていた自分のお金が返ってくる保証は何もありません。
特に、金融庁の認可を受けていない仮想通貨取引所を使っていた場合は、まったく補償が受けられない可能性が高いので注意が必要です。
現在、仮想通貨取引所は改正資金決済法によって金融庁の認可を受けなければ営業できないと定められています。認可を受けるためには一定額以上の資本金を持っているか、セキュリティに問題がないか、顧客資産の分割管理体制が整っているかなど、様々な条件をクリアする必要があります。
つまり、金融庁の認可を受けた仮想通貨取引所は、国によってある程度の安全性と経営の安定性が保証されているといえます。反対に未認可の国内取引所や、そもそも金融庁の規制が及ばない海外の取引所などは、セキュリティやコンプライアンスに問題があったり資本金が少なかったりする場合もあり、倒産や廃業のリスクが比較的高いと考えられます。
当然、未認可の仮想通貨取引所では、もし倒産した場合の補償もきちんと行われるか疑問です。ある日突然廃業の通知が来たきり、その後は音信不通という最悪のケースも考えられるのです。
また、取引所が破産して口座が凍結され、すべての取引が停止してしまった場合、その間に預けていた仮想通貨の価格が大幅に下落してしまうケースもあります。
その場合、仮に預けていた仮想通貨が返金されても、価格下落による含み損の分までは補償してもらえません。価格変動の大きい仮想通貨において、いつ行われるか分からない返金補償をただ待つのは非常にリスクが大きいと言えます。
次章では、仮想通貨取引所の倒産によって資産を失わないために、今すぐできる自衛手段について解説します。
取引所の倒産で資産を失わないために
ここでは、万が一仮想通貨取引所が破産したり廃業したりした時に備え、自分の資産を守るための自衛手段について解説していきます。
複数の仮想通貨取引所を使い分ける
最も基本的なリスクヘッジの方法が取引所の複数使いです。複数の口座にお金を分散して預けることで、もし1つの取引所が破綻したとしても被害を最小限に抑えることができます。
また、仮想通貨取引所にはそれぞれ得意分野があり、取り扱っている仮想通貨の種類や手数料に違いがあります。複数の取引所を使い分けることでそれぞれの強みを生かすことができ、投資の幅も広がるので一石二鳥です。
ただし、複数の仮想通貨取引所を同時に使う際は、セキュリティの面からパスワードの使い回しを避け、登録用のメールアドレスも使い分けるようにしましょう。
仮想通貨をウォレットに移動させる
まとまった金額の仮想通貨を保有していたり、当面トレードする予定のない通貨がある場合はウォレットを活用しましょう。仮想通貨取引所の口座から自分自身で用意したウォレットに資産を移しておけば安全に仮想通貨を保管することができます。その際は、セキュリティのレベルが高いソフトウェアウォレットやハードウェアウォレットを使うことをおすすめします。
次章では、国内の主要な仮想通貨取引所が、破産や廃業の際にどのような補償を設けているのかについて確認していきます。
国内の主要取引所が倒産したらどうなる?
ここでは、国内の主要な仮想通貨取引所を例に、万が一倒産した場合にどのような対策を設けているのか具体的に見ていきます。
ビットフライヤー(bitFlyer)
ビットフライヤーは自主的に信託保全を行っている国内でも数少ない仮想通貨取引所の1つです。提携先は三菱UFJ信託銀行で、もしも経営破産が起こった場合でも、顧客の資産は三菱UFJ側が管理しているため安全に守られています。
ビットポイント(BIT POINT)
ビットポイントも信託保全を取り入れている仮想通貨取引所です。日証金信託銀行と提携し、顧客資産を社内資産と完全に分割して管理しています。
ザイフ(Zaif)
ビットコインの取引手数料マイナスキャンペーンで人気のザイフですが、信託保全は行われていません。顧客資産の保全については、公式サイトに「最大限の努力を行う」と記載がある反面、特別な補償策については明記されていないので、利用する際はその点に注意が必要です。
コインチェック(coincheck)
巨額の資産流出事件を起こし経営再建中のコインチェックですが、こちらも信託保全は行っていません。公式サイトには「お客様からの預り金は経営資金とは完全に分離して管理しています。預り金を会社の資金として運営に用いられることは決してございません。」とありますが、万一の際の補償については具体的な説明がないので注意しましょう。
仮想通貨取引所の倒産リスクに対してより安全を期すなら、信託保全を行っている取引所を利用するのがベターです。
次章では、仮想通貨取引所の倒産した際のリスクや補償について、重要なポイントをまとめます。
まとめ
ここでは、これまで見てきた仮想通貨取引所が倒産した場合のリスクについて、大切なポイントを要約しておさらいします。
仮想通貨取引所が倒産したら、預けた資産は補償されない!
取引所が倒産するとすべての取引が停止し、個人の口座にあった仮想通貨は失われてしまいます。口座にあったお金がいつ、どれほど戻ってくるのかは、その時になってみないと全く分かりません。仮に補償されたとしても、減額されたり、返金までに時間がかかったりするケースが多く、ユーザーにとっては非常に大きな損害になります。
金融庁の認可を受けていない仮想通貨取引所はリスク大!
普及して間もない仮想通貨は、ユーザーを保護するための法整備が追いついてない面があります。仮想通貨取引所は銀行や証券会社と違い、顧客資産を信託保全する義務を負っていません。破産申請をしてしまえば、顧客へ返金する義務もなくなってしまいます。
こうした状況下でユーザーをできるだけ保護するため、金融庁は仮想通貨取引所を登録制にして厳しく監督しています。利用する際はできるだけ認可済みの取引所を選ぶようにし、いわゆる「みなし業者」や海外取引所を使う際はしっかり自衛をしましょう。
リスクヘッジのために複数の取引所を使い分けよう!
倒産のリスクから自分の資産を守るために、複数の取引所に口座を設け、お金を分散して置いておくことをおすすめします。その際は信託保全を行っている仮想通貨取引所を積極的に利用しましょう。
また、トレードに使う予定のないまとまった資産がある場合は、自分で用意した仮想通貨ウォレットへ移動させておけばより安心です。
仮想通貨の世界は目まぐるしく情勢が移り変わるため、取引所は常に破産や廃業のリスクを抱えています。たとえ大手の取引所であっても100%安全ということはありません。自分の大切なお金を守るために、倒産によるリスクをしっかり把握して普段から備えておくことが大切です。