仮想通貨取引所に法人口座があるって本当?

仮想通貨を取引して利益が出た場合、税金の支払いはどうなっているのかご存じでしょうか。
仮想通貨の利益は雑所得に分類され、最大でなんと55%という高い税率で課税されてしまいます。つまり苦労して得た利益の半分以上を税金として納めなくてはいけないのです。
こうした事態を避けるため、仮想通貨で稼いでいる人たちは「法人口座」を開設してそちらに乗り換えています。

仮想通貨取引所には個人と法人という2つのアカウント区分があり、法人を保有している人は法人口座を開設することができます。そして、この法人口座では課税率が個人のものと異なり、最大で37%程度と低い税率に抑えられているのです。
ここでは、節税に役立つ仮想通貨取引所の法人口座について、そのメリットやデメリット、開設方法、注意点などを説明していきます。

法人口座を開設するメリット3つ

仮想通貨取引所に法人口座を開設すると、以下のようなメリットが得られます。

  1. 節税ができる
  2. 社会的な信用を得られる
  3. 普段の支出を経費にできる

それでは、3つのメリットを簡単に解説していきましょう。

1.節税ができる

仮想通貨取引所に法人登録すると、利益の額によっては個人用の普通口座を使った場合よりも払う税金を抑えられます。
そもそも、仮想通貨を取引して得られた利益は「雑所得」に分類されています。個人の場合、この雑所得は利益額に対して15〜55%という高い割合で課税されてしまいます。一方、法人の場合はおよそ25〜37%程度の課税率になっています。
仮に個人として4000万円の利益を上げたとすると、雑所得として課税される割合は約50%となり、半額の2000万円を税金として取られてしまう計算になります。これに対して法人なら実効税率は37%となり、課税額は1480万円にまで抑えられます。つまり、個人と法人では利益額におよそ500万円の違いが出てしまうと言うことです。
もちろん、法人口座が節税になるのは一定以上の利益を上げた場合に限ります。税率との兼ね合いを考えると、利益額がおよそ1000万円を超えたあたりからが法人登録した方がお得なラインになります。

2.社会的な信用を得られる

仮想通貨取引所に法人口座を開くにあたっては、当然、法人登記を済ませておく必要があります。
法人登記がされているということは、会社として社会的な信用を得ているということです。仮想通貨取引だけでなく、他の事業を展開するにあたってもこの信用がメリットとして働きます。

3.普段の支出を経費にできる

法人登記をすれば、これまで個人として支払っていた普段の支出を経費として計上することができます。経費にできるのは、例えば家賃や光熱費、通信費、書籍代や接待費、旅費などです。この点も節税に繋がるメリットの一つです。

仮想通貨取引所に法人口座を開設する一番のメリットは、何といっても仮想通貨取引で得た利益に対してかかる税金を軽減できるという点です。
では、法人口座の開設にはデメリットがあるのでしょうか。次章ではその点を説明していきます。

法人口座を開設するデメリット3つ

税金をお得にできる仮想通貨取引所の法人口座ですが、その開設には以下のようなデメリットも伴います。

  1. 審査が厳しく時間がかかる
  2. 法人登記に費用がかかる
  3. 含み益にも税金がかかる

それでは、3つのデメリットを1つずつ簡単に解説していきます。

1.審査が厳しく時間がかかる

仮想通貨取引所に法人口座を開設する場合、個人の普通口座よりもはるかに厳しい審査をパスする必要があります。普通口座の場合は本人確認が取れ、登録した住所に誤りがなければ数日から遅くとも数週間で口座を開くことができます。しかし法人口座の場合は開設まで半年以上かかってしまったケースも多々聞かれます。
また、新しく作ったばかりの法人や、資本金の少ない法人、固定電話や自社オフィス、ウェブサイトを持たない法人などは審査そのものを通らない可能性もあります。
法人口座の開設申請には、審査が終わらないまま利益確定のチャンスを逃してしまったり、時間をかけて準備したのに審査を通らず計画が無駄になってしまったりといったリスクがあることを覚えておく必要があります。

2.法人登記に費用がかかる

個人でも法人でも、仮想通貨取引所には無料で口座を開くことができます。
ただし、それ以前に法人設立には合同会社なら10万円、株式会社なら30万円程度の費用がかかります。さらに年間7万円程度の維持費が発生する上、オフィスの家賃や税理士費用など様々な必要経費が発生します。仮想通貨取引所に法人口座を開く際は、こうした諸経費を支払った上でなお節税になるかどうか、事前に利益額などをしっかり計算する必要があります。

3.含み益にも税金がかかる

個人の場合、仮想通貨取引で利益確定した分のみが課税対象になります。一方、法人口座では決算期ごとに保有している仮想通貨の評価額を計上した上で、前期と今期の含み益に対して課税されます。
そのため利益確定していなくても税金を支払わなくてはいけなくなるケースがあり、あらかじめ納税用の現金を用意しておく必要があります。

仮想通貨取引所の法人口座は、大きく節税できる反面、審査や維持に手間とコストがかかる点がデメリットです。仮想通貨取引でどの程度の利益を上げることができるのか綿密に確認した上で法人登録を行うべきと言えます。

普通口座との違いは2つ

仮想通貨取引所の普通口座と法人口座には、大きく分けて以下の2点に違いがあります。

  1. 本人確認書類の種類
  2. 口座開設までの所要時間

それでは、2つの違いを解説していきます。

1.本人確認書類の種類

個人が仮想通貨取引所に普通口座を開設する場合、免許証やパスポートといった身分証の画像データを送信することで本人確認を行います。一方、法人口座の場合は取引担当者の身分証の他に、法人としての本人確認書類も提出しなくてはいけません。登記事項証明書、登記簿謄本といった公的な書類がこれに当たります。提出方法は個人の場合と同じく、写真画像をアップロードするだけで完了します。

2.口座開設までの所要時間

普通口座の場合、ほとんどの仮想通貨取引所が数日から数週間で取引できるようになりますが、法人口座の場合は数ヶ月以上待つケースもあります。
仮に提出した書類に不備があったり、住所など個人情報に誤りがあった場合、再審査にはさらに時間がかかってしまいます。個人の場合は気軽に何度も申し込みをやり直すことができますが、法人口座の開設には慎重に確認する必要があります。

普通口座と法人口座では、開設の際の手続きに多少の違いがあります。ただし、口座ができた後は、個人でも法人でも取引画面やサービス内容に差はつくことはありません。どちらの口座でも同じように仮想通貨の取引をすることができます。

次章では、法人口座を開設する手順を具体的に見ていきます。

法人口座を開設する手順

ここでは、仮想通貨取引所に法人口座をつくるための手順を解説します。

  1. 公式サイトのフォームに必要情報を入力する
  2. 本人確認書類をアップロードする
  3. 審査後に届く郵便物を受け取る
  4. 口座開設完了

では、開設までの手順を1つずつ説明してきます。

1.公式サイトのフォームに必要情報を入力する

まずは利用したい仮想通貨取引所の公式サイトにアクセスし、口座開設の申請フォームから「法人」を選択します。その後、メールアドレス、電話番号、住所、法人の代表者名や事業内容といった基本的な情報を登録していきます。その際、記載に誤りがないように気をつけましょう。

2.本人確認書類をアップロードする

基本情報の登録が済んだら、本人確認書類の画像をアップロードします。法人口座の場合は取引担当者の身分証と、法人の登記簿謄本等の2種類が必要です。いずれも直近のものを用意し、不備がないことを確認して送信します。

3.審査後に届く郵便物を受け取る

数週間から数ヶ月後、仮想通貨取引所から審査が終了したことを知らせる郵便物が届きます。その書面に記載されている専用のパスワード等を打ち込むことでアカウントが開設されます。

4.口座開設完了

無事に法人口座が開設できたら、その日から仮想通貨の取引をスタートすることができます。個人の場合と同様、セキュリティ対策のため忘れずに2段階認証を設定しておきましょう。

次章では、法人口座を作ることができる国内の仮想通貨取引所を紹介します。

法人口座が開設できる仮想通貨取引所

現在、法人口座を開設することができる日本国内の仮想通貨取引所は以下の通りです。

  • FISCO(フィスコ)
  • bitFlyer(ビットフライヤー)
  • Coincheck(コインチェック)
  • Zaif(ザイフ)
  • QUOINEX(コインエクスチェンジ)
  • bitbank.cc(ビットバンク)
  • BITPoint(ビットポイント)

いずれの仮想通貨取引所もウェブ上から申し込みが可能です。大まかな手順や必要なものもほとんど同じですが、開設にかかる時間は取引所によってバラつきがあります。必要な本人確認書類を揃えたら、複数の取引所に一度に申し込みをしておくことをオススメします。

ちなみに、GMOコインとDMM Bitcoinは法人口座開設を受け付けていません。どちらも仮想通貨FXを得意とする取引所として人気がありますが、法人登録をして利用することはできないので注意が必要です。

次章では、法人口座を開設するために必要なものを紹介します。

法人口座を開設するために必要なもの

仮想通貨取引所に法人登録し、口座を開設する際には以下の3点が必要になります。

  1. 法人の基本情報
  2. 法人用の本人確認書類
  3. 法人用の銀行口座

では、1つずつ簡単に解説していきます。

1.法人の基本情報

仮想通貨取引所の申し込みフォームに法人の基本的な情報を入力する必要があります。
必要な情報は法人名、代表者名、事業内容、住所地のほか、取引責任者の個人情報と本人確認書類、実質的支配者(議決権が50%を超える個人または議決権が25%を超える株主のこと、いなければ代表者)の個人情報などです。

2.法人用の本人確認書類

取引責任者の本人確認書類とは別に、法人としての証明書も用意する必要があります。
具体的には登記事項証明書、登記簿謄本、印鑑登録証明書、履歴事項全部証明書などです。また、証明書として認められるのは発行日から3ヶ月〜半年(仮想通貨取引所によって異なる)以内のものに限られます。

3.法人用銀行口座

個人名義の銀行口座から仮想通貨取引所の法人口座へは振り込みができません。そのため、法人として仮想通貨を取引するためには法人用の銀行口座も用意しておく必要があります。
なお、法人登録した直後だったり、資本金が少なかったりすると銀行口座の審査も通りにくくなります。メガバンクは特に審査が厳しいので、地方銀行やネット銀行の利用も視野に入れてあらかじめ準備をしておく必要があります。

次章では、海外の仮想通貨取引所で法人口座を開設する場合について解説します。

海外の仮想通貨取引所にも法人口座は作れる?

これまで国内の仮想通貨取引所に法人登録する方法を解説してきましたが、海外の取引所でも同様に法人口座は作れるのでしょうか。
結論から言うと、ごく一部の取引所では法人登録が可能です。例えばHUOBI(フォービー)という中国系の仮想通貨取引所では、中国以外に居住している人でも法人口座の申し込みをすることができます。ただし、そのためには基本的な本人確認書類に加えて営業許可証、取締役会決議書、授権委託書などといった公的証明書をいくつも提出する必要があり、手続きは国内の場合よりもずっと煩雑になります。
その上、海外の仮想通貨取引所に法人口座を作っても、急な規制を受けて取引自体が凍結されてしまうリスクがあります。この点を考えると、海外取引所に法人口座を開設するのはほとんどメリットがないと言えます。海外で法人を立ち上げてすでに事業を展開しているという場合を除き、あまり現実的な手段ではないでしょう。

次章では、国内の仮想通貨取引所に法人口座を作る際の注意点について説明します。

法人口座を開設する上での注意点

ここでは、仮想通貨取引所に法人登録をして口座を作る際に注意すべき3つのポイントを解説します。

  1. 審査に落ちるリスクが大きい
  2. 個人と法人の口座を重複保有できない場合がある
  3. 法人化以前の利益には普通口座と同じ税率がかかる

それでは、1つずつ見ていきましょう。

1.審査に落ちるリスクが大きい

法人口座開設の審査は非常に厳しく、設立して間もなかったり、資本金が少なかったりする法人は審査で落とされるリスクがあります。その上、一度審査に落ちてしまうとその法人の名義では再審査を受け付けてもらえません。また、なぜ審査に落ちたのかを問い合わせても理由は開示されません。
審査落ちを避けるためには、事業実績を固めたり資本金をできるだけ多くしたりといった対策が必要になります。

2.個人と法人の口座を重複保有できない場合がある

仮想通貨取引所によっては、個人と法人の口座を重複して保有することができない規約になっています。これまで取引をしてきた個人の普通口座を残したいと考える場合は、各取引所の規約を事前にしっかり確認しましょう。

3.法人化以前の利益には普通口座と同じ税率がかかる

法人化する以前に得た利益は、その後法人口座を開設したとしても個人と同じ率の税金が課されます。仮想通貨取引で大きな利益を上げたため、節税を目的に急いで法人を設立して法人口座を作ろうと考えている場合には注意が必要です。

次章では、仮想通貨取引所の法人口座について重要なポイントをまとめておさらいします。

まとめ

ここでは、仮想通貨取引所の法人口座に関する重要なポイントをまとめました。

  • 仮想通貨取引所に法人口座を開くと節税ができる場合がある
  • 法人口座開設の手順は個人の場合とほぼ同じ
  • 法人口座の開設にはリスクとデメリットもある

3つのポイントを詳しく見ていきます。

1.仮想通貨取引所に法人口座を開くと節税ができる場合がある

仮想通貨取引で得た利益に対する課税率は、普通口座で最大55%、法人口座で最大37%と法人の方がかなりお得になっています。
ただし、課税率は利益額によって異なるため、節税になるボーダーラインは利益が1000万円以上になった場合に限られます。

2.法人口座開設の手順は個人の場合とほぼ同じ

法人口座を作る手順は個人の場合と同様に簡単で、公式サイトの申し込みフォームに必要事項を記入し、本人確認書類の画像データをアップロートするだけで完了します。
ただし、法人口座では取引担当者の本人確認書類に加えて、法人登録をするための登記事項証明書、登記簿謄本などが必要になります。

3.法人口座の開設にはリスクとデメリットもある

法人口座の開設審査は非常に厳しく、また完了まで数ヶ月以上といった長い時間がかかります。さらに、審査に落ちてしまうとその仮想通貨取引所には再度申し込みができません。審査落ちを防ぐためには資本金額を高くしたり、自社の電話回線やオフィス、ホームページを用意するなど事前の準備が必要です。
なお、海外の仮想通貨取引所に法人口座を作るのは、手続きが煩雑な上にメリットが少ないためあまりオススメできません。

このように、仮想通貨取引所の法人口座は一定の条件を満たせば節税になりますが、個人の普通口座と違って気軽に作ることができないものです。そのため、申し込みを考える間に本当に節税になるのか見極めることが重要になります。悩んだらまず税理士に相談することをオススメします。